福岡歯科大学

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学部・大学院

壬生 正博 教授 インタビュー

「『夢文学』から人間の生命について考える」
2012.02.29
医療人間学講座 言語情報学分野
壬生 正博 教授

――前職の福井工業高等専門学校に赴任なさったきっかけは?また、環境にはすぐに馴染まれたのですか?

壬生:教員募集に応募したのがきっかけです。京都のすぐ隣なので、地理的にはいいのかなと思ったんですけど、いや~行ったらどっこい!雪がすごいですね!半端じゃないです。13年間勤めましたが、これにはとうとう慣れませんでしたぁ(笑)。でも楽しい思い出がたくさんできました。

――では、ご出身はどちらでしょう?

壬生:出身は福岡ですよ。宇美八幡宮というお産の神様が有名な糟屋郡の宇美町です。

――教員になろうとお考えになったきっかけは?また、英語をお選びになったわけは?

壬生:中学校3年生の時の担任だった国語の先生が、ものすごく忙しそうなんですよ。「きつい、きつい」みたいな感じで・・・そういう先生の姿を見てて、「教員だけはなりたくない」と思いました(でも、いろいろお世話になり、感謝してます!)。ところが高校の英語の先生が授業中ものすごく厳しいんですよね。悪いことしたら、ぐっと睨みつけるような・・・「怖いな~」と思ってたんですが、職員室に質問に行ったら、「よく来たな~」って人間味がある方で、そのギャップが「教員もいいなぁ」という最初のきっかけとなりました。
実家の家業を兄とともにやるのかなぁと漠然と将来を描いていた時期もありましたが、むしろ父親とは全く別のことをやってみようという気持ちが次第に強まっていきました。昔から英語は好きな方だったので、西南学院大学の英文科に進学しました。
卒論では、D.H.ロレンスの近代文学作品「Women in Love(恋する女たち)」の小宇宙的な拡がりのある世界を取り上げ、大学院では中世文学へシフトし、現在に到っています。夏目漱石の「こころ」を高校2年の夏休みの課題で読んだ時「人間の命ってなんだろう」という疑問が湧きましたが、ベースとしてこの問いかけは現在も持ち続けています。

――現在のテーマ「夢文学」についてお聞かせください。

壬生:具体的なイメージが描きにくいですよね。中世の「楽園(パラダイス)思想」に関係が深い文学です。パラダイスというのは、場所というだけでなく精神的なものでもあり、夢文学は人間の「生命」や「生きる喜び」が大きなテーマの1つにもなっているんです。
大学院のときに読んだ「マンデヴィル旅行記」がテーマ設定の発端になりました。ヨーロッパからみて東方に楽園が想定されていて、その辺りまで行って戻ってくる・・・いわゆる世界一周の紀行文的内容です。楽園を包括した“異界”という専門用語があるのですが、その枠組みの中に設定されているテーマの1つに「夢文学」というのがあるんですよ。
中世ってなんとなく古臭い、暗いってイメージが強いですけど、実際手がけてみると、当時の人々のおおらかさ、純粋さを感じますね。神話の世界の生き物がいる、ドラゴンや巨人が本当にいると信じられている時代ですね。当時造られた大聖堂などをみると、すごいなぁと実感します。あれだけの想像力と活力は、まさに人間の生命の豊かさを象徴していると思います。


13世紀頃の世界地図のレプリカ


「東方見聞録」(左)
「マンデヴィル旅行記」(右)

――歯科大学での英語教育に対して、何か気を付けていらっしゃることは?

壬生:赴任直後に「歯科英語」という科目を担当しましたが、一番思ったのが、やる気は旺盛なのに何をしていいのかよく分からない焦燥感ですね~あれこれ模索、試行錯誤を繰り返しながら、今は歯科そのものというより、広く医学系の英語、「健康」や「環境問題」とか、そういったことを取り上げているテキストを選んでやっています。TOEICへの対応という視点から、一般英語にも配慮しています。2年生の後期ぐらいに、インターネット上から取材して、「こういう新しい研究成果がでましたよ」とか・・・海外の歯科界・医科界のトピックスを取り上げることもあります。医学系の英語の全体像、エッセンスみたいなものをつかもうと、「日本医学英語教育学会」にも所属しています。

――先生のプライベートがちょっと想像つかないんですけど。お休みの日は何をされているんですか?

壬生:レンタルDVDを見て、英語を聞く訓練をしています。70-80%は映画を見ているようなものですが、おまけに英語の勉強ができたらいいかなと思っています。ドラマにいいものが多いですね。日常的なドラマとして「フレンズ」、イギリスのものでは、BBCの「魔術師マーリン」がいい。学生さんにお薦めを尋ねられることもありますが、「サウンドオブミュージック」、「マイフェアレディ」、「ローマの休日」あたりは、古いですけど内容もあり、面白さもある。語りつぐべき名作です。
ハリーポッターは、時代設定こそ現代ですが、中世みたいな雰囲気を併せ持っていますよね。イギリスを訪ねてみると、今でも中世を日常に感じることができます。ギリシャ・ローマ神話の世界とキリスト教の世界が混ざっていて、これらが現代のイギリス人の中にも息づいていると思います。描かれている世界も魔法の世界、わかるようでわからない、あるようでないような創造力の世界でおもしろい。ナルニア国物語も冒頭に箪笥から別世界へ入っていきますが、トンネルなどから別世界に入っていくというのは、まさに「異界」や「夢文学」の世界ですね。

――趣味やマイブームはなんですか?

壬生:楽器を扱うのが好きです。中学生の頃、フォークソングブームで、友達の影響でフォークギターを始めました。大学ではブラスバンド部に入って、クラリネットを吹いていました。九州交響楽団の方が3人指導に見えていて、そのおひとりのお宅へ泊りに行ったりして、いい経験でしたね。今もOBとして定例演奏会など聴きに行きますが、何十年かぶりで、昔の仲間に会っても、話していたらあっという間にその時代に戻ります。
また、室内犬(トイプードル)を飼っています。“フェアリー(妖精)”って名前なんです。個人的には動物を飼うことに反対だったんですけど、家内と息子が熱望して、結局多数決で負けました。でも、無邪気になつかれると、本当にかわいいものです。

――最後に学生へのメッセージをお願いします。

壬生:講義の関係で1,2年生に目が行くんですけど、最近思っていることがあります。入学したら、すぐに歯学関係の勉強を始めるんじゃないかと思っている学生が少なからずいるように思います。しかし、歯学とは直接関係ないような講義が1,2年生には多いので、やる気をなくす原因のひとつにもなっているのじゃないかなと思います。しかし、この時期は、歯科医師になるための準備段階です。人間としての人格形成に目を向ければ、教養を広げる、知識を広げる、そういう大きな視野をもつ人間に育つチャンスでもあるんです。今、自分の人間性を広げている段階なんだという意識をもって講義にもしっかり取り組んでほしいですね。

――本日は長時間の取材に快く応じてくださり、また沢山の興味深いお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。「夢文学」の追究を通じて、人間の生命や生き甲斐を根底から見据えていらっしゃる先生の魅力を学生さんや社会へこれからも発信なさってください。

壬生教授からのビデオメッセージ

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