耳寄りな話<小児歯科>


子どもの歯と口を守る

〜21世紀を担う子どもの健康のために〜
                      
 
 厚生労働省や日本歯科医師会などが8020(ハチマルニイマル)運動を行っています。これは現在、日本人の平均寿命が約80歳となり、その80歳のお年寄りが20本以上自分の歯を保つことを目標にしている運動です。このように20本以上の歯を持つことによって、食生活はほぼ満足できるものになります。それでは現況はどうかというと、80歳で20本以上の歯を有している人は、人口全体の約11%に過ぎません。8020運動の目標への到達がいかに困難であるかということが理解できると思います。そこで、この目標の達成にとって最も大切なことは何かというと、子どもの時からこの目標に向かっていかなければいけないということです。それは、乳歯のむし歯の多い子どもでは、永久歯のむし歯も多いということからも十分理解できます。子どもの歯および口の健康増進が将来その子どもの健康にとっていかに重要であるか、理解いただけると思います。
  したがって、子どもの歯および口の健康管理をする上で、保護者の役目の大きさを認識していただきたいと思います。

1.子どもの歯の働き
  口は飲食物の入り口で、消化器の一部であると同時に呼吸の際の息の出し入れに役立っています。その中にあって子どもの歯の働きを大きく分けると次の4つになります。

 1)食べ物を噛む
 子どもの成長には食べることは欠かせません。歯は食べ物を粉砕し、えん下しやすいように食塊を形成し、食品を消化しやすくしています。近年、噛めない子・噛まない子が社会的関心を集めています。

  2)発音を助ける
 はっきりと正確に発音するためには歯がとても重要です。丁度言葉を憶えている時期の子どもにとって、特に前歯は大切です。

 3)顔のかたちを整える
 昔から明眸皓歯(めいぼうこうし)といわれるように、歯は顔の中で重要なポイントです。多くの歯がむし歯で早くなくなったような場合、顔が歪んできたりします。

 4)顔の発育を助ける
 子どもと大人の顔の違いは目の位置を見るとよくわかります。すなわち子どもの目は顔のほぼ真ん中にありますが、大人の顔になるになるまでに目から下の顔の部分が後から成長します。顎の骨は歯を支えている土台のようなものですから、歯の働きによって顔立ちまで変わります。その時、歯が大事な役目をします。

2.子どものむし歯とその影響
 日本の子どものむし歯の数は、アメリカやヨーロッパの子どもと比べて多く、最も新しい調査では3歳の子どもの約36%がむし歯になっています。12歳の子どもで、約2.3本のむし歯を持っています。子どものむし歯は以前と比べて減少し、その程度も軽くなってきているといわれていますが、依然として日本は、むし歯に関しては後進国に属しているといえます。これは、食生活や歯みがきなどの生活習慣の違いによるところが大きいと考えられています。

 1)むし歯の原因
 むし歯は、口の中に常在する細菌の中で、主にストレプトコッカス・ミュータンスが砂糖と協力して歯の表面の最も硬いエナメル質を溶かすことに始まります。このストレプトコッカス・ミュータンスは、主に母親からその子どもに感染するといわれており、最近では、むし歯は感染症と考えられるようになってきました。したがって、母親の口の中の状態が問題になります。

 2)むし歯の影響
 エナメル質がいったんむし歯になり、それが進んで、その下の象牙質に移るとむし歯は横に広がり、一層大きくなります。それは象牙質が柔らかいためです。さらに進むと歯の真ん中にある歯髄(しずい・俗に神経と呼んでいる)に感染し、最後には歯髄が死んでしまいます。そうなるとその歯への栄養がいかなくなり、歯は死んだ歯になってしまいます。しかし、それでもおさまらず歯の根に病気をつくり、歯茎が腫れて、膿がたまるようになってきます。大人の歯ではむし歯が象牙質に達すると、冷たいものに対し、しみたりするような症状が出てきます。しかし、子どもの歯(乳歯)では、このような症状を示すことが少なく、お母さんが知らないうちに歯髄が死んでしまい、さらに進行して歯茎が腫れてから、はじめて気が付くこともよくあります。そうなると、もうその歯を抜かないといけなくなる場合もあります。したがって、子どもが何も言わないから、まだいいだろうと考えるのは大間違いです。永久歯の場合と違って、乳歯のむし歯は進行が早く、痛みを訴えることが少ないということを知っていただきたいと思います。また、歯髄が死んだ歯では、下から永久歯が出てくる時に、乳歯の根がうまく吸収されないので、永久歯の萌出(ほうしゅつ)の邪魔になります。そのために永久歯の歯並びにも影響します。

3.子どものむし歯予防
 むし歯は自然に治ることはありません。したがって、むし歯にならないように予防することが肝心です。子どものむし歯予防は、お母さんの妊娠中から始まるといわれています。それはお母さんの妊娠中に乳歯ができはじめるからです。むし歯に強い歯かどうかは、お母さんの妊娠中の栄養にも左右されます。
 子どものむし歯予防には、@むし歯の原因である砂糖を多く含む甘いものを子どもに与えない、A歯磨きをして歯についた食べカスを取り除く、Bフッ素などを利用してむし歯に対し強い歯にする、C永久歯が生えてきたらむし歯になりやすい歯の溝をシーラント材で埋める、などがあります。

4.子どものむし歯の治療
 小児歯科と小児科の違いは、小児歯科では口の中の小さい歯が対象になるということです。すなわち、子どもが口をあけてくれなければ治療ができないということです。したがって、小さい子どもでは、いかに治療が難しいかは想像できると思います。そのようなことが必要ないように普段からむし歯予防に気をつけることが肝心です。もし、むし歯になっても、むし歯は小さいほど治療が簡単です。むし歯が大きくなれば、治療の際に注射をしないといけなくなり、小さい子どもは大変です。したがって、いつも子どもの口の中をチェックし、早期治療に心がけることが大切です。

5.子どもの口の中の怪我
 年々、子どもの口の中の怪我が増えているといわれています。乳歯の怪我は2〜3歳に、永久歯では7〜8歳の子どもに多く見られます。歯を打撲して、歯が折れたり、歯の位置がかわったり、また歯が抜けたりします。抜け落ちた歯でも、すぐであれば、元に植え戻すことも可能です。また、わずかな打撲でも、後で歯髄が死んでしまい、そのために歯が変色してはじめて気がつくこともあります。歯を打撲したらすぐに歯医者さんに行って、適切な処置をしてもらうことが大切です。

6.子どもの口の中の病気
 むし歯以外にも @歯の数・形・生え方の異常、A歯ぐきの異常、B唇・舌・口腔粘膜の病気、などがあります。また、そのほかに子どもの口の中にも色々な病気があります。なかには、子どもにしかみられないものや、全身疾患の1症状として口の中にあらわれるものもあります。それが子どもの口の中は、小児科の情報源といわれている所以です。

7.子どもの指しゃぶり
 1〜2歳の小さい子どもが指しゃぶりをしているのは、生理的なものとして問題ありませんが、3〜4歳でも依然として指しゃぶりをしている場合は、歯並びに問題が生じてくることもあります。だからといってむりやりや止めさせることは良くありません。その理由は、止めさせることによって情緒的に不安定になったりするからです。その前に、その原因が何か、親子の関係などその背景について調べる必要があります。もし、すでに歯並びに問題が生じており、自然な改善が期待できない時は、装置などを入れて治療することもあります。

8.子どもの歯並び
 乳歯の時は、むし歯もなく、きれいな歯並びだったのに、永久歯が生えてきたら歯並びがおかしくなったといって、来院される子どもさんもいます。これは小さい乳歯の下から大きい永久歯が生えてくるからで、永久歯が正常に並ぶためには、顎の骨の正常な発育など、いくつかの条件が必要です。もし、それらに問題があれば、永久歯の歯並びがおかしくなります。また、乳歯の時の歯並びの異常についても、永久歯が正常に生えてくるように、乳歯の時に治療した方がいい場合もあります。

 子どもの口の中は、保護者の育児態度を示す鏡であるといわれています。すなわち、子どものむし歯は、保護者の意識次第で予防することが可能です。子ども時代の歯および口の健康が、その子の将来の健康を決めるのだということを再認識して、お子さんの健康のために努力していただきたいと思います。
 
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