福岡歯科大学

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鳥巣 浩幸 准教授 インタビュー

「小児科医は「おせっか医」~子育ての強い味方~」
2016.02.01
総合医学講座 小児科学分野
鳥巣 浩幸 准教授(現:教授)

今回は小児科の鳥巣先生にお話を伺いました。

――高校まで福岡で過ごされたそうですが、どんな学生生活でしたか?

鳥巣:高校のときは執行部という生徒会活動を3年間していました。主に文化祭、運動会など、色々なイベントの企画運営をしていました。次から次に行事があるので忙しかったですね(笑)。西新商店街のお店を1件1件回って広告料を集めたりしていましたね。

――先生は少し変わった経歴をお持ちですよね?最終的に小児科を選ばれた理由は?

鳥巣:ええ、確かに私は大学を二つ出ています。初めに入学した東京大学では数学を専攻していて、大学院まで進学しました。
元々子どもが好きだったのもありますが、在学中に障害のある子どもたちと遊ぶサークルに参加していたんですよ。今日は何して遊ぼうか考え、運動会や遠足、クリスマス会なんかを企画してましたね。そうやって障害のある子どもたちと接する中で、この子たちに何かできないかなと考えるようになり、あらためて九州大学で医学部に入学して医師となり、小児科の道に進みました。
当時は全く医学的知識がない中で障害のある子どもたちと接していたので、障害のある子どもを先入観なく、一般の人と変わらない立場から見ていました。それが小児科医になった今も患者さんや保護者の方の視点を理解するのに役に立っていると思います。

――大学院まで行くほど好きだった数学への未練はないのですか?

鳥巣:実は小学生くらいのころから数学者になりたいと思ってたんですが、私の性格上、社会とあまりつながらない中でずっと研究をしていく事を仕事とするには向いてないと感じるようになったんですよね。
でも、今でも自分のアイデンティティとしては数学があります。小児科の診療で直接役に立つことはほぼないですが、直接の利益がないというのが数学らしいかなと思います(笑)。


インタビューを受ける鳥巣先生

■研究について

――小児科の研究について教えてください。一番の魅力はなんでしょう?

鳥巣:生命の神秘に入り込んでいけるところです。意外に思われるかもしれませんが、小児の病気の研究は、医学を支える基礎的な部分と密接に関係しています。小児の病気は、生体に必要な機能が上手く働かないことによって起こることが多いので、原因を追究し、解明していくと、生体の根本的な仕組みの解明につながるんです。小児科の研究は病気を治すだけではなくて、医学の進歩をもたらす可能性を持っている分野なんですよ。

――先生が研究の専門とされている領域について教えてください。

鳥巣:脳炎や脳症などの、感染と免疫が絡む神経疾患の領域を研究の対象としてきました。その中でも私は臨床現場で働く医師ですので、患者さんを中心とした臨床的な研究に力を入れています。
患者さんの診療を大切にして、かみしめるのが私の信条です。笑顔で患者さんと話をしながら、自分の知識を総動員して症状の謎解きを試みます。解けなかった謎が研究のきっかけになります。患者さんに興味を持って接することを心がけていれば、いつでも研究はできるということです。
今後は、てんかんや発達障害にも研究を広げていき、得られた知見を少しでも診療に還元したいですね。

■診療について

――先生の専門である神経小児科について教えてください。

鳥巣:神経小児科は小児の脳・神経の病気や発達の問題を扱う小児科の分野の一つです。患者さんの数で多いのは発達に関する相談ですね。今はよく耳にするようになった発達障害もその一つです。他には、てんかんをはじめとした痙攣(けいれん)の病気も多いですね。

――小児における脳や神経の病気は他にどのようなものがありますか?

鳥巣:感染に伴う脳炎・脳症や髄膜炎、筋ジストロフィーなどの筋肉の病気、自己免疫が関わる病気、代謝異常や変性疾患と呼ばれる病気、もやもや病などの脳血管の病気、遺伝的な病気を含めたら口では言えないほどたくさんの病気があります。このような病気の知識をアップデートしていくのは、中々大変なことです。なので、福岡地区の小児神経専門医は毎月1回集まって勉強会をしています。

――大人でも脳や神経の病気に罹(かか)ることがありますが、小児の場合では何が違いますか?

鳥巣:同じ病気でも「起こりやすさ」に違いがあると思います。例えば、インフルエンザ脳症は成人より子どもがかかることが圧倒的に多いです。成人の場合、インフルエンザ脳症はかなりまれで、肺炎をおこし重症化することのほうが多いと思います。小児でもインフルエンザ脳症自体はまれな病気ですが、発症した場合は寝たきりになることもあり、多くの小児科医が治療技術を向上させようとしています。
その他、子ども特有の先天的な病気もあります。十万人に一人、百万人に一人と確率が低いものも多いですが、その患者さんが来院した際に対応できる知識と技術が必要です。

――本院の神経小児科の特色を教えてください。

鳥巣:本院の神経小児科は、2名の常勤の小児神経専門医が神経外来を行っている福岡市では数少ない医療機関の一つです。患者さん1人当たりの診療時間も確保しておりますので、しっかり時間をかけて患者さんについてお話をお聞きすることができます。発達障害のお子さんや保護者の方にも時間をかけて診療しています。また、脳波や頭部MRI検査などを待ち時間なく受けることができます。もちろん、市内の他院に紹介することもできますので、安心して受診してください。

――すこし領域を広げて小児科についてはどうでしょうか?

鳥巣:そうですね。小児科の診療は、病気のみならず、親やその子の生活環境まで考慮して診療する包括的なものです。だからある意味、おせっかいな医療をするのが小児科だと思っています。

――「おせっかい」なんですか?

鳥巣:小児科医はいい意味でおせっかいなんですよ(笑)私もお子さんの学校での過ごし方、家での過ごし方が気になりますね。なので教育や福祉とつながっているのが当然かと思います。
小児科は、病気のみならず、親やその子どもの生活環境まで考慮した包括的な医療を提供することが信条なので、教育や福祉関係者の方とは必要に応じて連携を取っています。学校の先生から子どもの病気についての情報提供を依頼されることもありますし、場合によっては先生が直接来院されて相談をされることもあります。


診療風景の1コマ

――先生の診療についての抱負を聞かせてください。

鳥巣:私は九州大学病院や地域の基幹病院の神経外来で15年以上診療させていただきました。医療は医学知識だけではできません。書物には載っていない、現場で患者さんと接することで学ぶ診療技術があります。私はこれまで診療してきた延べ3万人近くの患者さんから学んだことを活かし、小児科医としても小児神経専門医としてもさらなる高みを目指します!

■ 本学での教育について

――本学の口腔歯学部生への教育で心がけていることを教えてください。

鳥巣:現在、小児科学の講義に加えて、臨床実習の学生指導も行っています。実習では、「知識の伝達ではなく、わかりやすく実践的であること」を心がけています。
これまで勤務した大学においても学生指導を行いましたが、歯科の学生と接する機会は本学が初めてです。そういう意味では、本学の口腔歯学部生は医科との距離が近く、実習は大変貴重な経験だと思います。歯科医になった時に、小児科での実習が少しでも役に立つものになるように、今後も工夫を続けていきます。
具体的な実習は、前半に診療についてのガイダンスと小児科での診療風景の観察、後半はアレルギー反応検査を体験したり、脳波検査の機器やデータを見せたり、てんかん発作についての動画を見せたりしています。学生たちには、ただ話を聞くだけでなく、スモールグループでディスカッションできるような形を取っています。


脳波計を操作する鳥巣先生

――口腔医学と小児神経学との関わりについてはいかがでしょうか。

鳥巣:口腔機能の発達は、小児神経学においても興味深いテーマの一つであり、学問的に共通する部分があります。また学問的な面だけではなく、口腔機能の異常は、様々な小児神経の病気で認められます。
例えば、飲み込めない、噛めない、食べる時にうまく舌が使えないということがありますので、歯科の先生方とともに診療を行う対象でもあります。さらに、小児神経疾患を抱えるお子さんの中には、歯科治療の際に特別な配慮が必要なお子さんがいますので、歯科と神経小児科が連携することは、お子さんの安全のためにも望ましいことです。学問的な面でも診療面でも、口腔医学と小児神経学は密接な関係にあると思います。

――最後に歯科医師を目指す学生へメッセージをお願いします。

鳥巣: 小児科学分野は、口腔歯学部学生や大学院生が小児科学の知識を修得することに加え、小児医療全体に関する幅広い見識を得ることを目標に教育を行っています。小児科学の立場から、口腔医学の分野で活躍できる歯科医師および研究者の育成に力を尽くしたいと考えています。みなさん、ぜひ志を持って本大学へ来てください。


今回は特別に鳥巣先生へ子どもの発達に関する質問に答えていただきました。

子どもの発達の遅れが気になる場合でも病院に行くほどの事か迷う時がありますが、どうしたらよいですか?

健診の際に相談されるのもよいと思います。また、インターネットで調べると多くの相談可能な行政機関の窓口もあります。気軽に相談されてはどうでしょうか。昔と比べて、早期から子どもたちに対応できるようになってきています。本院においては、一般外来の他に週3回神経発達外来で発達の問題やけいれんの問題を抱えるお子さんの診療をしています。お子さんのことで気になることがあれば、来院いただき、ご相談ください。まずはお聞きすることから始まります。

最近、発達障害という言葉をよく耳にしますが、「自分の子どもが発達障害かも…」と心配です。

気になる方は多いと思います。でも、発達障害であるかが問題ではありません。まずは、お子さんのどのような行動を心配されているのかをはっきりさせることから始めましょう。
例えば「うちの子どもはこのビデオの映像しか見ません」という相談で保護者が来院されたとします。確かに「特定のビデオのみを見る」という行動は発達障害の特性かもしれません。でも、その行動自体は困ったことではありませんが、「学校の友だちの話の意図が分からなくて、けんかになる」や「クラスから一人で飛び出していく」といった場合は本人にとっても生活する上で困ることになります。私はそれを解決していくという視点でお話させていただいていますので、どのような問題が起こっているかを丁寧に考えることが一番大切です。

個人差の大きい幼児期の子どもの発達は特に気になるもの・・・。
子どもの様子を見ていて、少しでも心配・不安になったら、専門医に相談して一緒に考えていくのが大切なんですね!
先生、ありがとうございました!!

鳥巣准教授(現:教授)からのビデオメッセージ

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